がん免疫療法について
10月1日に日本の本庶博士とアメリカのアリソン博士が2018年ノーベル医学生理学賞受賞の発表がありました。発表後、本庶教授らの研究を基に日本で開発された新しいタイプのがん治療薬「オプジーボ」や、手術、抗がん剤治療、放射線治療に続く第4のがん治療法として期待される「免疫療法」についていろいろなメディアでクローズアップされています。
今回は免疫とがんについてのお話です。
🌼免疫とは
自己と非自己(外から侵入した細菌やウィルスなどの病原体や、体内で発生したがん細胞)を見分け、異物と見なしたら攻撃し体から排除します。
この免疫機能には様々な細胞が活躍しています。
司令塔 ヘルパーT細胞
パトロール部隊 異物に最初に攻撃するNK細胞、マクロファージ、好中球。情報伝達役の樹状細胞。
攻撃の実行部隊 キラーT細胞、B細胞。
免疫は「自然免疫」と「獲得免疫」の2段階で働いています。
「自然免疫」ではパトロール部隊が異物全般を攻撃します。更に異物の情報を次の段階の「獲得免疫」に伝えます。
「獲得免疫」では免疫を担当する細胞が増えて攻撃がパワーアップします。また異物の情報を「自然免疫」から受け取り情報を記憶することができるので、同じ異物が侵入したり、異常細胞が発生した時に速やかに攻撃することが出来ます。
😊こうした細胞の働きは最近アニメ化もされた漫画「働く細胞」で分かりやすく描かれています。
🌼免疫に対抗するがん
がん細胞は正常な細胞の遺伝子が変化して出来た異常な細胞で、体内で増殖していきます。免疫細胞たちは常に現れ続けるがん細胞を排除しようと働いています。しかし、がん細胞は生き残る為に様々な方法で免疫によるパトロールや攻撃から逃れ増えていこうとします。
こうした免疫による歯止めが掛からずがん細胞が増殖した状態が臨床で発見されるがんと言えます。免疫に対抗できる性質を持ったがん細胞の集まりですからとても厄介です。がん細胞が免疫に対抗するやり方には大きく2つに分けられます。
①免疫細胞に見つからないようにする。
免疫細胞はがん細胞表面にある目印(がん抗原)を見付けると異物と見なし攻撃します。この目印を無くしたり隠して免疫細胞による攻撃から逃れ身を潜めるのです。
②免疫の働きをブロックする。
免疫の働きを妨げる物質を出したり、免疫の働きにブレーキをかける細胞を増やすなどして、免疫の働きをブロックしてがん細胞が増殖します。
本庶教授らが発見したPD1分子は免疫機能が活性化したT細胞上に発現します。がん細胞に発現したPD-L1やPD-L2という物質と結合するとT細胞の働きを抑制します。このPD1とPD-L1との結合部位は「免疫チェックポイント」と呼ばれています。
🌼免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬によりPD1とPD-L1の結合を解除して免疫細胞に掛かったブレーキを解除すると、T細胞の機能が復活してがん細胞を攻撃します。話題のオプジーボはPD1に蓋をしてPD-L1と結合できなくしてしまうのです。
これまでの免疫療法では、免疫細胞の攻撃力を高めるやり方がメインでしたが、がん細胞による免疫へのブレーキについて明らかになり、新しい治療薬の開発に繋がったのです。
開発当初は悪性黒色腫のみの適応でしたが、研究や臨床試験が進み適応するがん種も増えて来ました。それに伴い問題となっていた価格も随分下がりました。
もちろん「全てのがんに効く」「これまでの抗がん剤と違い副作用がない」訳ではありません。
がん免疫療法は効果に個人差があり、免疫関連の副作用が起こりやすいことから、免疫療法が有効な患者さんや、副作用が起こりやすい患者さんの識別の必要性があります。現在こうした識別が可能となるバイオマーカーの開発が進められています。
新大久保店 二木